わたしが娼婦になったら(寺山修司『少女詩集』)
あたしが娼婦になったら
いちばん最初のおきゃくはおかもとたろうだ
あたしが娼婦になったら
あたしがいままで買い求めた本をみんな古本屋に売り払って、世界中で一番香りのよい石鹸を買おう
あたしが娼婦になったら
悲しみをいっぱい背負ってきた人には、翼をあげよう。
あたしが娼婦になったら
たろうの匂いの残ったプライベートルームは、いつもきれいにそうじして誰もいれない
あたしが娼婦になったら
太陽の下で汗をながしながらお洗濯をしよう
あたしが娼婦になったら
アンドロメダを腕輪にする呪文をおぼえよう
あたしが娼婦になったら
誰にも犯サレナイ少女になろう
あたしが娼婦になったら
悲しみを乗り越えた慈悲深いマリアになろう
あたしが娼婦になったら
黒人(アポロ)に五月の風を教えよう
私が娼婦になったら
黒人からJAZZを教えてもらおう
悲しい時にはベッドにはいって
たろうのにおいをかぎ
うれしい時には風に向かってしずかに次に起こることを待ち、
誰かにむしょうに会いたくなったらベッドにもぐって息を殺して遠い星の声を聞こう
ーー僕はこの詩をいつ読んでも新鮮でなんとも言えない気持ちになる。
僕はむしろ貞淑という名の美徳よりも,この十七歳の女子高校生の優しさに寄り添いたい。
(8.22誤字訂正:「黒人にjazzを押してもらおう」→「jazzを“教えて”もらおう」)