『七月の炭酸水』

うどんが好きな、場末人の生存と残像。

水中メガネ


Chappie - 水中メガネ

  

水中メガネで記憶へ滑ろう

蒼くて涼しい水槽の部屋

あなたの視線に 飽きられちゃったね

去年は裸で泳いでたのに

泣きながら鏡の前で踊る

ゆらりゆらり俄か雨

水中メガネをつけたら わたしは男の子

微かな潮騒 空耳なのかな

無言の会話がきしむ音かな

あなたは無視して漫画にくすくす

わたしは孤独に泳ぎだしそう

熱帯の魚と じゃれるように

暑い暑い夏の夜

心はこんなに冷たい

わたしは男の子

 

岩陰でいちゃついてた あの夏の匂い

洪水みたいに時の波が

ゆらりゆらり打ち寄せる

水中メガネの向こうで

一人鏡の前で踊る

ゆらりゆらり俄か雨

水中メガネを外せば

見知らぬ女の子

 

心的外傷後成長(PTG)とは―逆境で人間的に深みを増す人たちの5つの特徴 (また「PTG」概念に付随する「危うさ」に対する"真っ当な"反駁コメントも併記)

susumu-akashi.com

 

PTGは、苦しい経験を通して、単に少し見方が変わった、というようなものでではありません。ちょっとした病気や、人間関係の行き違い、上司や先生からの叱責など、日常的なストレスで引き起こされるわけではありません。

PTGは、英語ではtransformative change、すなわち、人生観が根本から変わるような変化だと説明されています。比喩的な表現を用いるならば、新しい自分に生まれ変わるような変化です。

元に戻るという選択肢はなく、新しいものを積み上げていく以外他にどうしようもない中で経験されるような根本的な変化をさします。(p68)

PTGに至るきっかけは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に至るきっかけと同じです。

自分にとって衝撃的な出来事、たとえば戦争、災害、犯罪、重い病気、愛する人の死、いじめ、虐待、不登校など、心をズタズタに傷つけ、破壊されるようなできごとが始まりです。

そうした出来事は、自分がそれまで抱いてきた「中核的信念」や「基本的価値観」をみじんに砕きます。

PTGとは、「新しい自分に生まれ変わるような変化」だとされていました。それは、つまり、まず衝撃的な出来事というハンマーで元の自分が粉々に打ち砕かれ、もはや修復さえもかなわず、新しく作りなおす以外に方法がなかった、ということを意味しています。

 

 

>このブログに関する異なる視点からのコメント(以下)

臨床心理の修論テーマを最初はレジリエンスにしていて、その後PTGに変更し、更に別のテーマに変更して修了したのですが、レジリエンスやPTGをテーマにしていて調べものをしたり、思考したりしているうちに感じたことを、的確に言い表わして下さっている箇所がありました。

>PTGはなぜ「取り扱い注意」なのでしょうか。
それは、PTGという概念が軽々しく扱われるなら、それによって傷つけられる人がいるからです。
PTGの特徴について考える前に、まず注意しておかなければならない点を5つ考えてみましょう。・・・
>PTG 心的外傷後成長―トラウマを超えてにも、PTGの概念の創始者カルホーンとカデスキーが、「成長を経験したという人でも、どんな人にとっても悲劇や喪失が望ましいこと、あるいは成長にとって必要なことであると結論づけることはできない」と警告したと書かれています。(p50)

まま、自身のまとめ力不足や枚数制限の具合で、到底この概念の取り扱いがどれほど要注意なのかを書けそうにも無かったので、複雑性PTSDをテーマにすることに変えたのですが、今も、この概念と使い方は、ほんとうに細心の注意が必要だと思っています。

 

吉野弘『夕焼け』「吉野弘詩集」所収 1971

「夕焼け」

いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。 
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッと噛んで
身体をこわばらせて—–。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。

 

川上未映子「砂漠、名古屋、銀河、いかが」所収引用

思いだせない口から編まれる言葉のすきまにときおりあなたとわたしだけに光ってみせる光があるから、地味で相も変わらずでどうしようもないようなこの鮮やかな難局を、あなたもわたしも乗り越えることができると思うのです

 

/川上未映子「砂漠、名古屋、銀河、いかが」

 
 
 

朝は詩人

風は長い着物を着て
朝の通りを目覚めさせる
ぼくは朝と手をつなぎ
夜まで眠ることにした

 

雨は遅れてやって来て
村の祭りを中断させた
オートハープを抱えた少女が
駅で電車を待っている

 

君が歌うその歌は
世界中の街角で朝になる
君が歌うその歌の
波紋をぼくはながめてる

 

陽射しは午後の砂浜に
旅行者のように立っている
白い手すりのあるベランダで
夏は鏡をのぞいてる

 

折り重なったままの静けさで
大地は朝を待っている
夜明けの景色につながれて
子馬は水を飲んでいる

 

君が歌うその歌は
世界中の街角で朝になる
君が歌うその歌の
波紋をぼくはながめてる

 

朝は音もなくやって来て
戸口にメモを残していく

たくさんのメモの木漏れ日が

風が吹くたびゆれている

 

君が歌うその歌は
世界中の街角で朝になる
君が歌うその歌の
波紋をぼくはながめてる

君が歌うその歌は
世界中の街角で朝になる
君が歌うその歌の
波紋をぼくはながめてる

 


朝は詩人 友部正人

友部正人 (現代詩文庫)

友部正人 (現代詩文庫)